「インテリジェンス」って、何なの?第5回:インテリジェンスサイクルの考え方を応用して、身近なテーマでインテリジェンスを生産してみよう

前回まで、インテリジェンスの定義からインテリジェンス生産まで、お話してきました。今回は、いよいよ実際にインテリジェンスを生産してみましょう。

インテリジェンスの生産は、国家安全保障問題のような大きなテーマから私たちが日常接する身近な問題まで、そのレベルはさまざまですが、ここでは私たちにとって非常に些細で身近なテーマとして、「昼食の選択」を採り上げます。

(昼食のメニュー選択くらいで、こんなに大げさに考える人は、多分いないでしょうけれど…。)

1. 状況設定


主人公は、入社3年目のA君(25歳)。時計の針が11時45分を過ぎ、お腹がグ~となったため、そろそろ今日の昼食として何を食べようかと考え始めています。

個人的なテーマであるため、A君は自分ひとりで、インテリジェンスサイクルを回して、必要なインテリジェンスを生産します。

すなわち、この場合、A君は意思決定サイドの立場と、インテリジェンスを生産する情報サイドの立場という2つの立場を一人で担うことになります。

意思決定者としてのA君は、意思決定のための明確な判断基準を持っていることが必要です。

A君の判断基準は、

「美味しくて、安くて、早いこと」

なのですが、かなり曖昧さや不十分さを含んでいそうです。

A君は、学生時代はスポーツマンで筋肉質のかなり引き締まった体つきをしていましたが、社会人になってからは、運動不足でBMI(Body Mass Index:ベルギー人の数学者・天文学者であり統計学者であるアドルフ・ケトレーが1835年に開発したヒトの肥満度を表す体格指数。

[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出され、25を超えると過体重と判定される。)が26になっていますが、健康を維持しています。

しかし、最近、少しダイエットしなければ…と考え始めています。

2. 情報要求(リクワイアメント)


このような状況において、A君の情報要求(リクワイアメント)は、次のようになりました。

“ 昼食に何を食べるかを決めるためのインテリジェンスが欲しい! ”

3. タスキング(T:Tasking)


A君は、まず、昼食を選択するための評価項目は何だろうと考えました。

判断基準からは、「美味しい」、「安い」、「早い」となりそうですが、冷静に考えると、さらに多くの評価項目を設ける必要があるのではないか、ということに気づきました。

そこで、EEI(Essential Elements of Information)すなわち必要な情報収集項目を次のように設定しました。

EEI
① 美味しいもの
② 価格
③ 早い
④ カロリー
⑤ 栄養
⑥ 店の雰囲気

4. 収集(C:Collection)


EEIに基づいて、次に様な方法/考え方で情報収集を実施しました。

① 「美味しいもの」
好きなものとほぼ同意と考え、「ステーキセット」、「ざる蕎麦」、「刺身定食」、「カツどん」 を上げました。
② 「価格」
日頃、店を回って記憶している価格を思い出しました。
③ 「早い」
「現在地から店までの移動時間」と「注文から配膳までの所要時間」の合計時間を、経験から推定しました。
④ 「カロリー」
“料理別カロリー表”を参考にすることにしました。
⑤ 「栄養」
食材を想像し、炭水化物、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルおよび必須アミノ酸などが十分含まれているかを、中学生時代に習った知識を思い出しながら、その充足度を考えました。
⑥ 「店の雰囲気」
スマホでネット検索したり、行ったことのある店については、記憶をたどりました。

5. 処理(P:Processing)


収集した情報は、各項目(6項目)とも、1(劣)~5(優)段階で数値化処理しました。数値化は、客観性を重視したが、“美味しい”や“店の雰囲気“については、主観的は評価になるものの公平性も心掛けました。

6. 解析/分析(E:Exploitation/Analysis)


収集・処理したデータを表にまとめて各メニューごとに集計し、分析結果(下記の表参照)を導きました。

result

7. 配布(D:Dissemination)


本来は、情報サイドから意思決定サイドに結果(インテリジェンス)が渡されるのですが、今回のテーマはA君が二役を勤めているので、A君は自ら製造したインテリジェンスを参考に、意思決定することにしました。

A君は、はじめ、ステーキセットを食べようと思っていたのですが、上記の結果から今日の昼食は、刺身定食に決めました。カロリー、栄養バランス、価格などから、BMIも考慮し、身体と財布に優しい選択に落ち着いたようです。

食べ物は、同じもを食べ続けないで、多くの種類のものをバランス良く食べることが推奨されています。
A君が、明日も同じテーマでインテリジェンスを生産すれば、評価項目や配点等に微妙な変化が生じ、それに応じて今日とは異なったインテリジェンスが導き出されるかもしれません。

インテリジェンスサイクルの考え方を応用すれば、このように欲望や偏見に捕われるリスクを軽減することができます。

インテリジェンスから正しい判断(意思決定)をするためには、さらに、“判断を狂わせる人間の癖”について理解を深めた上で、それに惑わされないための工夫が大切です。

次回はそれらについて、話を進めたいと思います。