「インテリジェンス」って、何なの?第3回:「意思決定サイド」と「情報サイド」の注意すべき関係について

前回は、インテリジェンスの生産方法として、インテリジェンスの先進国である米国のインテリジェンスコミュニティで広く使われている「インテリジェンスサイクル(TCPED)」についてお話しました。

ICT技術を活用して優れたコンピュータシステム(インテリジェンスシステム)を構築しても、それを使う人や社会システムが適合していなければ、上手く機能しないばかりか状況によっては弊害にさえなったりします。

今回は、インテリジェンス生産にまつわる人や体制の問題や収集したデータ(インフォメーション)に対して常に留意しておかねばならない事柄について、お話したいと思います。

意思決定サイドと情報サイドの注意すべき関係


図1は、前回お示ししたインテリジェンスサイクルの図における「意思決定サイド」と「情報サイド」の関係をシンプルに描いたものです。

fig1
図1 「意思決定サイド」と「情報サイド」の関係

基本的な関係は、

意思決定サイド:意思決定に必要な知識すなわちインテリジェンスをリクワイアメントとして情報サイドに要求。
情報サイド:意思決定サイドからのリクワイアメントに基づいて、インテリジェンスを生産し、意思決定サイドに回答する

というものです。

ここで重要なことは、両サイドの独立性と高い倫理観です。

独立性と倫理観の欠如により、米国のインテリジェンスコミュニテイが過去に繰り返してきた数多くの失敗を私たちは教訓として受け取り、活かさねばなりません。

意思決定サイドと情報サイドの独立性が乏しい場合、典型的な例として、意思決定サイドが情報サイドの上位組織になっていて、意思決定サイドが情報サイドの予算権と人事権を握っているケースです。

この場合、意思決定サイドがすでに何らかの理由や手段で意思決定を済ませていて、その理由づけや正当性の主張のためにインテリジェンスを要求したり、情報サイドが忖度して意思決定サイドの意向に沿うインテリジェンスを生産して回答することになりかねません。

また、情報サイドが意のままに意思決定サイドを動かすためにインテリジェンスを捏造して回答する可能性もあります。

これを「インテリジェンスの政治化」と言います。一般に、情報サイドは意思決定サイドに比べて圧倒的に豊富なインフォメーションと知恵(ナレッジ)を蓄積していますので、提供するインテリジェンスを通じて意思決定サイドをコントロールすることが可能なのです。

このような事態を防止するためには、

・両サイドを従属関係ではなく、独立関係にする。
・複数の情報サイドを設置して、それらに対して同時にリクワイアメントを発し、インテリジェンスの照合や比較/検討を行う。

などの対策(仕組み)が有効です。

情報サイドが実施するインフォメーションの収集は、インテリジェンスを生産する上で、極めて重要なステップです。インフォメーションの内容によっては、その信頼性評価のために情報サイドが情報源を精査する必要があります。

また、意思決定サイドから情報サイドに情報源の問い合わせが来た場合は、状況によっては情報源を秘匿する(明かさない)ことが大切です。

情報源の意に反して、情報源が明かされた場合、情報サイドと情報源の間の信頼関係は瞬時に崩れ去ることが多く、かけがえのない重要な情報源を失う可能性があります。問題が国家安全保障等に関わる場合には、情報源の人の生命を危険に晒すことすらあり得ますので、細心の注意/配慮が必要です。

Aさん:「え~!そうなの?それって誰から聞いたの?」
Bさん:「ホント、驚きでしょ!Cさんから内々に聞いたのよ。でも、内緒にしてよね。」

こんなことでは、CさんのBさんに対する信頼は崩れ、BさんはCさんから二度と情報提供してもらえない…ということが起こり得ます。

次回は、インテリジェンスシステムに集まった情報をどう取り扱っていくかについて考察していきます。

普段の仕事の中においても、集めた情報の中に誤り、陳腐化、不足など様々なステータスが入り混じった情報が混在していますよね。

そのあたりをお話ししたいと思います。