「インテリジェンス」って、何なの?第2回インテリジェンスの生産方法(前編)

前回は、インテリジェンスについて言葉(用語)の定義、および私たちの生活や社会との関わり、さらには優れたインテリジェンスの必要性などについてお話しました。

今回は、“優れたインテリジェンス/役に立つインテリジェンスを生み出すには、どのようにすれば良いのか”についてお話したいと思います。

インテリジェンスに基づいて行われる意思決定は、個人レベルのものから国家レベルのものまで多種多様です。

個人レベルの意思決定で比較的重要度の低いものの例として、今日のお昼休みに何を食べるか、喉が渇いた時に水を飲むかお茶を飲むかコーヒを飲むかなどが考えられ、どのような意思決定をしても、またその意思決定に基づく行動をしても、さらにはその選択が最適なものでなくても、ほとんど大事には至りません。

このような軽微なケースやステークホルダ(利害関係者)がほとんどいない場合は、普通、インテリジェンスの生産などという大それた意識をしないで頭の中だけで意思決定をしています。

しかし、複雑で重要な意思決定をしなければならない場合は、きちんとした手順でインテリジェンスを生産することがとても大切です。

インテリジェンス生産のプロセスを活用することで、より良い行動に役立つだけでなく、自分自身でその結果に納得できたり、関係者を説得して同意を得ることにも役立ちます。

国家レベルの重要な意思決定としては、戦争の回避/遂行、外交方針、予算、経済戦略、憲法改定や法の整備、インフラ整備、教育改革、産業振興方策など、ほとんどの政治経済の意思決定がこれに該当します。

個人レベルで重要な意思決定には、結婚相手の選定、就職先や業務の選択、永住場所の決定、深刻な病気の治療方法の策定などが該当するでしょう。

インテリジェンスの先進国と言われる米国が、その重要性と必要性を再認識して本格的な体制整備と方法論の検討・研究を始めたきっかけは、1941年12月8日未明(日本時間)に日本海軍がハワイ・オアフ島の海軍拠点に対して行った奇襲攻撃(真珠湾攻撃)です。米国は、二度とこのような目に合わないよう、迅速かつ合理的なインテリジェンス生産に乗り出しました。

第二次世界大戦が終わって73年が経過し、インテリジェンス生産の方法論も改良が重ねられ進化しました。

その結果を参考にしながら、話を進めたいと思います。

米国のインテリジェンス・コミュニティは、DNI(Director of National Intelligence:国家情報長官)のもと、CIA(Central Intelligence Agency:中央情報局)、DIA(Defense of Intelligence Agency:国防情報局)、FBI(Federal Bureau of Investigation:連邦捜査局)、NGA(National Geospatial-Intelligence Agency:国家地理空間情報局)、NSA(National Security Agency:国家安全保障局)など、17の政府機関で構成されていますが、ここで広く採用されているインテリジェンス生産方法に、「インテリジェンスサイクル」があります。

インテリジェンスサイクルとは


下の図は、インテリジェンスを生産する流れを示しています。

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まず、意思決定をして関係者に行動の指示(命令)を出す人が存在します。

同図では、その人のことを「カスタマー」と表現しています。カスタマーは、一般に組織の長で、国だと大統領や総理大臣、中央官庁なら大臣、会社なら会長や社長、学校なら校長/学長、都道府県なら知事、事業部なら事業部長、部なら部長などが該当します。

カスタマーは、自らが関係しそうな事象(出来事や兆候)に対して常に関心を持っていて、何らかの行動を起こすべきか否かを考えています。しかし、カスタマーは、多くの場合、非常に多忙であるため、自分で情報を収集したり解析したり分析したりする余裕がありません。カスタマーにとって、どうしたら良いのかさえ分からないこともあり得ます。

そこで、カスタマーは情報サイドというインテリジェンス生産の組織にインテリジェンスの生産(すなわち意思決定に必要な知識の生産)を依頼します。

この依頼を“リクワイアメント(=情報要求、インテリジェンス要求)”と呼んでいます。

インテリジェンスを生産する組織を、ここでは情報サイド(インテリジェンス組織)と呼んでいます。

情報サイドは、5つの機能すなわち、タスキング(Tasking)、収集(Collection)。処理(Processing)、解析/判読/分析/予測(Exploitation)、配布(Dissemination)、

から構成されています。

この5つの機能を迅速かつ的確に回しながらインテリジェンスをタイミングよく生産します。

このサイクルのことをインテリジェンスサイクル、その仕組みを各機能の頭文字をとってTCPED(ティーシーペッド)と呼んでいます

少し長くなってしまいましたので、5つの機能の動きについては後編にしたいと思います。